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執筆者の写真代表 しがNPOセンター

行政経営という言葉がもたらしたもの

           しがNPOセンター

                     代表理事 阿部 圭宏



 山口県阿武町の公金誤入金問題を見て、筆者が感じたのは自治体の規模によってフルセット行政を行うことの難しさだ。2000年の地方分権一括法の施行によって地方分権改革が進行するが、併せて国主導による市町村合併への流れが加速した。大規模合併をした自治体でもいろいろな課題が出ているが、阿武町のように合併を選択しなかった小規模町村が、人材不足、財源不足により住民に十分なサービス提供が行われていないケースも散見される。


 自治体では、地方分権改革を機に、これまでの行政管理から行政経営という言葉が主体的に使われるようになった。そのきっかけは、2012年に出された政府の「骨太の方針」(正式には「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」)である。そこには、ニューパブリックマネージメント(=N P M)という行政手法が紹介されている。市民を顧客ととらえ、民間企業における経営理念や経営手法を導入することで、行政部門の経済性、効率性を向上させ、市民の満足度を高めようとするものである。



(著者撮影)


 市民の満足度を高めるという視点は確かに大切だが、行政経営という言葉が示すように、企業のように効率化を目指せば、当然、不採算部門にもメスが入る。本来、行政がやらなければならないことを予算がないことを理由に縮小したり、止めたりするケースが後を絶たない。民営化の推進、指定管理者制度の導入、公共施設の見直しなどもどんどん行われている。


 コロナ禍では、公立病院の閉鎖、保健所の統合、保健師の減少などが問題になったが、行政サービスが低下することで地域課題がますます顕在化していることに目を向けていく必要があるだろう。


 民間がすべてよしということはなく、行政しかできないことがあるという行政の役割を原点に立ち返って、もう一度見直していく必要がある。こう書くと、人口減少と高齢化によって、ますます税収が減るのにどうするのだと言う人もいるだろう。すぐには結論は出ないが、ベーシックな行政サービスを保証して、誰もが安心して暮らしていくための方策を知恵を出して考えていくしかない。



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