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安倍政権をどのように評価するか

           しがNPOセンター

                     代表理事 阿部 圭宏



安倍元首相が非業の死を遂げた。あってはならないことであることは当然だ。ただ、この死を持って安倍がやってきたことを手放しに評価するのは、まさに民主主義にとってはあってはないことだと言える。


安倍は、首相として憲政史上最長在任日数を記録したが、長いからよいというものではない。これまでの自民党政権になかった強引な国会運営や自身の後援会への便宜供与など、とても民主主義国家とは思えないような面も数多くあった。


ここですべてには触れられないが、いくつかに絞って考えてみたい。


(筆者撮影 ブランチ大津京)


まずは、安倍政権の要の政策のアベノミクスである。当初、3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略)というキャッチフレーズを使って政策実現を図った。日銀による量的金融緩和策が当初は功を奏していたが、構造改革を伴う成長戦略が頓挫して、結局は金融政策だけが突出することになった。今も続く量的緩和からの脱却は容易ではなく、今後の日本経済の不安要因ともなっている。


2016年にGDPの算出基準が変更された。変更理由は国際基準に合わすためとされているが、この結果、経済は成長したと算出基準が変わっているにも関わらず、成果だけが強調されてきた。賃金は上がらず、最近の物価高が生活への影を落としている。


アベノミクス以外にも、多くのスローガンが矢継ぎ早に出されてきた。思いつくだけでも、「地方創生」「人生100年時代構想」「女性活躍」「1億総活躍社会」「人づくり革命」「働き方改革」「全世代型社会保障」などのスローガンがあった。


女性活躍推進法は、女性の職業生活に関する活躍を推進しようとしたもので、それ自体は評価できる。一方、ジェンダーギャップ指数2022では、例年どおり、日本は世界146カ国中116位と下位に位置し、主要先進国では最下位となっている。世界の流れからも完全に遅れており、女性活躍が単に労働力の確保対策でしかなかったのはないかとの疑念も生じる。


戦争法案とも呼ばれた平和安全法制は、物議を醸した。日本国憲法では集団的自衛権の行使を禁止しており、歴代内閣はその解釈を踏襲してきた。安倍政権では、内閣法制局長官の首をすげ替えた挙句、憲法の解釈改憲とも言える集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、国会での平和安全法制を強行突破成立させた。国会前では市民による反対の抗議集会が行われるなど、この国のあり方を一から問うこととなった。


もう一つ、法律で問題になったのが特定秘密保護法である。これは、漏えいすると国の安全保障に著しい支障を与えるとされる情報を特定秘密に指定し、それを取り扱う人を調査・管理し、それを外部に知らせたり、外部から知ろうとしたりする人などを処罰するものだ。特定秘密の範囲が広いため、憲法に保障されている言論の自由や知る権利を侵害するものとして強い批判が出されたが、これも強行採決で成立している。特定秘密は一覧として公表されていて、693件(2022年6月末現在)あるが、具体的な内容まではわからない。恣意的に運用される危険性を孕んでいる。


安倍内閣の特徴は、官邸主導ということも挙げられる。プラス面は、省庁の縦割りを解消するとともに、迅速な対応ができることだ。マイナス面は、霞ヶ関が官邸の意向に沿って政策決定を歪めたり、内閣人事局による一種の恐怖政治が行われたことだ。菅政権時の日本学術会議の任命拒否問題でも当時の官房副長官が暗躍したと言われている。官邸は加計問題でも主導的に動いていた。国会でも明確な答弁は行われていないが、政策が歪められた可能性は高い。

(筆者撮影 ブランチ大津京にある まちづくりスポット大津)


もう一つ触れておかなければならないのが、森友問題、加計問題、桜を見る会問題といった一連の問題である。いずれも国会では厳しく安倍首相は追及されたが、しっかりと説明しないまま終わっている。森友問題では公文書改ざんを命じられた近畿財務局職員が自殺し、その妻が国を相手に訴訟を提起したが、その途中で一転、国は賠償を認め、裁判は終結してしまった。国の隠蔽体質は何もこれだけでなく、一連の国会答弁でも首尾一貫していた。


桜を見る会問題は、安倍政治とは何かを考える上で非常に役に立つ。参加者と経費の増大、招待者の中に後援会関係者、地方議員、ジャパンライフ会長、反社会勢力が入っていたなど、いろんな問題が指摘されている。政府主催にも関わらず安倍事務所が後継会関係者に事前に文書を送ったとか、招待者名簿がシュレッダーで廃棄されたということもあった。さらに、後援会主催の懇親会が前夜に行われていて、政治資金収支報告書への記載がなかったことや、不足分を補填したのではないかとの疑惑があった。


まだまだ書きたいことはあるが、それはまたの機会としたい。


岸田内閣は、安倍元首相を国葬にすると閣議決定した。国葬を決めた理由、憲政史上最長の8年8カ月、首相の重責を担ったことなどとしている。国葬は吉田茂以来となる。確かに、吉田茂は連合国とサンフランシスコ平和条約を締結し、日本の主権を回復した。佐藤栄作は沖縄返還を、田中角栄は中国との国交回復を実現した。中曽根康弘は内閣・自民党合同葬儀という形をとった。安倍の葬儀も一歩譲って内閣・自民党合同葬儀で良いのではないか。安倍は何をやったのか。貢献というよりも国民の分断を加速しただけなのではないか。それでも国葬は行われるのだろうか。

 




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