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執筆者の写真代表 しがNPOセンター

福島第一原発処理水の放出は本当に妥当か

  しがNPOセンター                      

                代表理事 阿部 圭宏


 政府は、漁業者の反発を押し切って、先月24日から福島第一原発の処理水の海洋への放出を始めた。海水で希釈してトリチウム濃度を下げ、多核種除去設備(ALPS)で処理した他の核種の濃度も確認しながら行ったという。


 海洋放出の影響として、まず、海外からの批判の声がある。中国は日本からの水産物輸入を全面的に禁止したが、政府は科学的根拠のない規制などの即時撤廃を強く求めていくという姿勢をとっている。中国からの多数の嫌がらせ電話がいろいろなところにかけられている。


 嫌がらせ電話は論外だとしても、そもそも福島第一原発処理水の放出は本当に妥当だったのか。






 中国政府が主張しているのは、各国も原発から汚染水を排出しているが、それはあくまで冷却水であり、事故で溶けた炉心に接触した汚染水ではないということである。溶け落ちた炉心と直接接触した汚染水には60種類以上の放射性核種が含まれ、ALPSで取り除けるものではないらしい。


 政府は、IAEAの調査報告書が海洋放出を正当化する理由としているが、実は汚染水の海洋放出を正当化するものではなく、放出設備の性能やタンク内処理水中の放射性物質の環境影響などを評価したに過ぎないものだとされている。


 報告書では「放射線リスクをもたらす施設や活動は、全体として利益をもたらすものでなければならない。正当化は、放射線防護の国際基準の基本原則である」「日本政府からIAEAに対し、ALPS処理水の海洋放出に関連する国際安全基準の適用を審査するよう要請があったのは、日本政府の決定後であった。したがって、今回のIAEAの安全審査の範囲には、日本政府がたどった正当化プロセスの詳細に関する評価は含まれていない」「ALPS処理水の放出の正当化の問題は、本質的に福島第一原子力発電所で行われている廃止措置活動の全体的な正当化の問題と関連しており、したがって、より広範で複雑な検討事項の影響を受けることは明らかである。正当化に関する決定は、利益と不利益に関連しうるすべての考慮事項が考慮されうるよう、十分に高い政府レベルで行われるべきである」(以上、原子力資料情報室HPから転載)と記載されているそうだ。



(筆者撮影 オリーブ)


 そうだとすれば、処理水の放出は日本政府が決定することであり、IAEAはその方針を推奨するものでも承認するものでもないということである。


 しかも報告書では、水産物の摂取で被爆に最も寄与している放射性核種は、ヨウ素129、炭素14、鉄55、セレン79であるとされていて、ALPSで取り切れなかったトリチウム以外の核種が与える影響が大きな割合を占めることが明確に示されている。タンクの汚染水の7割がトリチウム以外の核種が取りきれていないもので、これがALPSで二次処理して本当に取りきれるのかという疑問も残る。


 なお、当面放出されている処理水は、二次処理の要らない約3割分からということなので、トリチウムのことしか触れられていない。


 今回の放水は30年以上かかり、費用も当初30億円と言われていたものが数百億円、これに漁業補償を加えると、1300億円もの多額費用がかかる。しかも、これで本当に廃炉ができるのかという懸念もある。


 NPO/NGOからも多くの批判が出ている。「大型堅牢タンクでの保管」や「モルタル固化」などの代替案が提案されてきたが、東京電力と日本政府が海洋放出以外の案を考えることもなかった。


(筆者撮影 百日紅)


 マスコミでは、海洋放出へ反対をしている市民団体を「反対派」として報道するため、あまり国民からの共感が得られていないに思われる。マスコミはもっと処理水放出をすでに終わったものとせず、市民団体にも寄り添いながら積極的な報道を望みたい。


 海洋放出を始まってしまったが、デブリの取り出しが終わらないことには、これからも汚染水と放射性物質は増え続けるということも、しっかりと我々も受け止めなければならない。

 

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