しがNPOセンター
代表理事 阿部 圭宏
滋賀県東近江市長の県内首長会議での「文部科学省がフリースクールを認めたことにがく然としている。国家の根幹を崩しかねない」という発言と会議後の「不登校の大半は親の責任だ」と答えたことに対し、多くの批判が挙がった。同会議では、高島市長も「フリースクールは行政が推奨すべきものではない。週1回課外活動で散歩、バレーボール、ドッジボールのようなことをするのが本当に教育なのか疑問」と発言している。
県は「教育機会確保法」の理念に基づき、「滋賀のすべての子どもたちに学びと育ちの機会を保障するための不登校対策」を議題として会議を実施したが、三日月知事は、会議前の記者会見でフリースクールに対する補助を「憲法第89条との兼ね合いでなかなか難しい面もあると承知をしている」と答えている。
その後の記者会見では、「フリースクールへの補助が茨城県などで既に補助されているので、憲法89条に抵触する問題というのはクリアされているのではないか」と問われ、「公金・公費を投入することには憲法上の制約もあるとの考えに変わりはないが、どういう支援策があるのかを議論、検討していきたい」と答えている。
滋賀県内の自治体首長の考え方に幅があるので、そのために支援しないという理由として憲法第89条のことも持ち出したのではないかとも思われる。
憲法第89条は、「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」という規定である。この規定の後段部分「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し」が特に私学助成に関して問題とされ、いろんな議論がされてきたが、現在、政府見解では私立学校が私立学校振興助成法に決める監督を受けることを持って公の支配に属しているという解釈がされている。
(筆者撮影)
フリースクール支援ができないのは、私立学校振興助成法が適用できる学校法人ではなく、カリキュラムも様々、言い方によってはオルタナティブ教育とあたかも公教育と対峙するかのような議論を前面に出して、公的支援をするのはいかがかという話があるように思われる。
今回の知事の憲法上の疑義という発言に引っかかったのは、89条問題はフリースクールのみならず、市民活動、NPO全般に関わる話だからだ。
1998年にNPO法が施行されて以来、特に、自治体ではNPO支援条例、協働条例など、市民活動、NPOに対するアプローチが広がった。この中で、憲法第89条問題に根幹から取り組んだのが、横浜市市民活動推進検討委員会である。委員会報告(1999年3月)では、自主性確保、公費濫用防止のどちらかに重点を置くかを比較しながら、公金支出等を伴う市民活動と行政との協働する際の基本的なあり方として、(1)公金支出等の対象となる市民活動が社会的公共性をもつこと、(2)公金の支出及び公の財産の利用に供された事業に関する報告・検査など「公費濫用の防止のための処置」が講じられていること、(3)それらを担保するものとして、市民活動及び行政に関する情報が公開され、市民が誰でもその情報に接して内容を確認することができるようにすること、を挙げている。
(筆者撮影 近江八幡駅前にて)
多くの自治体では、市民活動、NPOとの協働の名の下に、NPOに対する公金の支出が行われているし、直接、公金支出とはならないまでも、認定NPO法人制度のような寄付税制は、実質的な補助金的意味合いを持っていて、これまでの自主性確保という面だけを捉えて違憲だということでは済まされない。すでに多くの実績がある以上、横浜市のような解釈を積極的にすべきであって、フリースクール問題もそこから考えるべきだと思う。
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