本当に健康保険証を廃止するのか
- 代表 しがNPOセンター
- 2024年11月1日
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しがNPOセンター
代表理事 阿部 圭宏

我が国は、誰でも手軽に医療機関にアクセスできるという世界に誇る仕組みがある。厚生労働省は「国民皆保険制度を通じて世界最高レベルの平均寿命と保健医療水準を実現しており、今後とも現行の社会保険方式による国民皆保険を堅持し、国民の安全・安心な暮らしを保障していくことが必要」だとしている。健康保険制度は、国民全員を公的医療保険で保障し、医療機関を自由に選べ、安い医療費で高度な医療を提供できるという特徴を持っていて、社会保険方式を基本としつつも皆保険を維持するため、公費が投入されている。

(筆者撮影 黄葉)
現在は、紙の保険証をベースとしているが、この12月2日に健康保険証の新規発行を廃止し、マイナ保険証に一本化するという方針を政府が強行した。マイナ保険証はもともと選択制というのが政府方針だったが、2022年10月13日の河野太郎デジタル大臣が記者会見で2024年秋に健康保険証を廃止すると発表した。所管外の大臣が法律改正や閣議決定という手続きが行われていないものを突然発表するなどもってのほかだ。
マイナンバーカードの申請者数は全人口の約84パーセント(10月20日現在)となっているが、保険証が紐づけられたマイナ保険証はまだ約58パーセント(4月末現在)でしかない。マイナ保険証の利用率に至っては、8月時点でわずか12.4パーセントというお粗末な状況だ。

(筆者撮影 桜の紅葉のはじまり)
では、なぜ取得率、利用率が劇的に増えないのか。一言で言えば、何のメリットもないからだ。政府はデジタル化で利便性が上がると喧伝してきたが、その論理はすでに破綻している。利用率が低いにもかかわらず、医療機関で受診の際のトラブルが依然多く発生している。名寄せがうまくいかない、被保険者資格が確認できないなどの問題である。こうしたトラブルに対応するために、システム改修が行われるが、新たな問題も発生するのでイタチごっことなってしまう。その上、マイナンバーカードに紐付けすることで、実はいろんなデータが組み込まれて不正利用のリスクが高まる。
しかし、平将明デジタル大臣は、「顔写真もない、ICチップもない。不正をしようとする悪い考えを持った人たちから見ると、これほど付け入る隙のある制度はない。こういった穴をしっかり埋めていかなければならない」という意味不明の発言をしている。
このまま保険証が廃止された場合、マイナ保険証を持たない人には顔写真もない、I Cチップもない資格証明書が発行されるという大臣の話とは矛盾した対応がなされる。
自公政権が過半数を割った今回の総選挙結果を受けて、資格証明書ではなく紙の保険証が継続するように、積極的に声をあげて運動をすべきだと思う。石破首相は総裁選のときに保険証廃止の見直しのような発言をしていたものの首相になった途端に予定どおり実施すると言っている。ただ、野党との政策協議を進めるとの報道もある。野党も現時点での力量を考え、政権交代などと戯言を吐くのではなく、早急に保険証廃止の中止、延期等を政権と協議すべきだ。
なお、我々もマイナ保険証問題をしっかりと勉強し、発言すべきだ。マイナ保険証の問題点を分かりやすく解説した「マイナ保険証6つの嘘」(北畑淳也著)[1]は、お勧めの一冊である。
[1] 北畑淳也著「マイナ保険証6つの嘘」(せせらぎ出版、2024年7月)
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