新書を読んで考える
- 代表 しがNPOセンター
- 7月1日
- 読了時間: 4分
しがNPOセンター
代表理事 阿部 圭宏

今月は、社会問題を考える機会として新書の紹介をしたい。
しがNPOセンターでは、毎月「新書de読書会」を開催している。読者会の課題本は、筆者の趣味によるところ大きいが、参加者からのリクエストを取り上げることもある。この時点で、取り上げた新書は116冊になるので多いと思われるかもしれないが、年間12冊しか読んでいない。新書は毎月多くの新刊が発行されるが、筆者が興味を持って読んだもののごく一部しか扱っていないことになる。
新書も玉石混交で、タイトルから選んで購入しても内容が面白くなく、失敗したと思うことも結構あるが、ここで紹介する新書は、日本だけでなく今世界を知る上で、有意義なテーマを題材としているので、ぜひ、読んでほしい。

最初の2冊は「イラン現代史」と「ユダヤ人の歴史」である。
中東、とりわけ、今回の紛争当事者であるイランとイスラエルがどういう国であるのか、実はよく分からない。「イラン現代史」を読むと、イランは中東の大国で、石油利権をめぐって、英国やアメリカが介入して西洋的な発展をしてきたが、イスラム革命により、ホメイニー体制、ハータミー体制へと続いてきた流れがよく分かる。本書はトランプによる核合意核合意離脱、イスラエルのガザ侵攻までの記述となるが、今のイラン侵攻を予言しているとも読める。
「ユダヤ人の歴史」は、現在のイスラエルという国家を知る上で欠かせない、流浪の民であるユダヤ人の歴史を古代から紐解いている。ユダヤ人が苦難の道を歩んできたことは事実である。中世、近世と記述は続き、近代ではユダヤ人の分布が触れられている。ユダヤ人はロシアや東欧に暮らす人が多くホロコーストへと進む。戦後はイスラエル建国やそれを取り巻く世界情勢にも触れ、今のイスラエルの立ち位置とあわせ読み応えがる。
もう1冊紹介したいのが「宗教地政学で読み解くタリバン復権と世界再編」である。
タリバンというとその評価は極端に低いが、アメリカのアフガン侵攻は失敗であり、その反目としてタリバンが復権した。女性差別などタリバンへの批判は大きいが、その背景にある西洋的価値観の押し付けが見過ごされているとの主張がなされる。国連から正式政府と認められていないが、実質的には政府機能を果たしているタリバンとどう向き合うかが問われている。

続いて、国内に目を向けよう。
まず、「インフレの時代」を取り上げる。消費税減税やガソリン、電気・ガス補助金など、消費を煽る施策が叫ばれる中、インフレが加速している。政府が介入していも、円安の流れが止まらない中、日銀がようやく政策金利を1%に引き上げた。どうすれば賃上げができるかを含め、市場のメカニズムを解きほぐし、警鐘を鳴らしてくれる本となっている。
天皇制を憲法と絡めて論じているのが「天皇への敗北」である。民主主義と立憲主義を考えて憲法物語の作成が試みられたが、結局、天皇に頼らざるを得なかったというアイロニーを乗り越えられていない。加藤典洋、中野重治、江藤淳、信田さよ子などの論考を引いて、戦争責任などにも触れている。
最後が、「対話をつくる」である。本書は、朝日新聞の論壇時評を担当した著者が、論壇委員と共に議論する姿勢を見せながら執筆しているという特徴がある。多くの論考を読みながら、一つのテーマを時評としてまとめる作業は大変だと思いつつ、読みやすい文章が論点を明確にしている。第2部として取り上げている保守、物語、アメリカとテーマとした3人との対談も見逃せない。

「イラン現代史〜イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで」
(黒田賢治著、2025年11月、中公新書)
「ユダヤ人の歴史〜古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで」
(鶴見太郎著、2025年1月、中公新書)
「宗教地政学で読み解くタリバン復権と世界再編」(中田考著、2024年9月、ベスト新書)
「天皇への敗北〜シリーズ哲学講話」(國分功一郎著、2026年4月、新潮新書)
「インフレの時代〜賃金・物価・金利のゆくえ」(渡辺努著、2026年1月、中公新書)
「対話をつくる〜分断の時代に言葉を取り戻す」(宇野重規著、2026年5月、朝日新書)





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