首相が国益を損なっているのではないか
- 代表 しがNPOセンター
- 12月1日
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しがNPOセンター
代表理事 阿部 圭宏

愛国者として知られる高市早苗が総理大臣になって1ヶ月が経った。発足当初の内閣支持率は非常に高く、予算委員会で問題発言をしたにもかかわらず、相変わらず高水準の支持率を保っている。
臨時国会での所信表明では、中国は重要な隣国であり、建設的かつ安定的な関係を構築していく必要を説き、経済安全保障を含む安全保障上の懸念事項の存在を認めながらも、日中首脳同士で率直に対話を重ね、「戦略的互恵関係」を包括的に推進すると述べた。

こうした所信表明演説によって、結果的にAPECでの習近平との首脳会談が実現した。中国側も高市が案外冷静に対応していると、よい評価をしたのだと思われる。ところが、翌日には、APEC首脳会議に参加している台湾代表と会って、握手している写真を自身のXに投稿した。これで中国側の高市評価が下がり、それにトドメを刺したのが、予算委員会での高市発言である。
岡田克也から過去発言のことを問われ、例えばと断った上で、台湾を北京政府の支配下に置くために、シーレーン封鎖、武力行使、偽情報、サイバープロパガンダなどのケースが考えらえれるが、戦艦を使った武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得ると考える、と言ったのだ。[1]

これまでの歴代首相は、敢えて台湾問題を曖昧にしてきた。田中角栄内閣による日中国交回復正常化以来、政府が台湾の位置付けに対してとってきた考え方が根幹から揺らぐ事態になった。
日中国交正常化交渉は、台湾問題が大きな火種となったが、最終まとまった共同宣言では、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。…中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」ということで決着した。この辺の経過は、当時、田中首相に随行した外務省条約課長であった栗山尚一氏が書いている。[2]
安倍晋三が集団的自衛権を内閣法制局を使って認めることとし、安保法制を強行したにもかかわらず、首相在任時には台湾に関する具体的な発言を避けてきた。退任後には、「台湾有事は日本有事」と言ったが、例え首相経験者でも一議員の発するものと現職の総理大臣の言葉では位置付けが全然違っていて、その意味からも高市発言は国益を損なっている。

日本のメディアは、その後の中国の対応にばかり反応していて、高市に対する明確な批判がない。ネットを中心に、「高市よく言った」「あんな質問をする岡田が悪い」という発言が跋扈している。しかも、その両方を並べて言っていることも多く、その矛盾に気づかないのだろうか。
トランプは習近平と電話会談をして、トランプ自身は台湾問題には触れた発言を公表していないが、その後、高市に電話をかけ、「台湾を巡る発言の語調を和らげるように助言した」と言う。
本格的な政策論争に行く前に、入り口で躓き、これからの高市政権はどうなっていくのか。一番気になるのは、極端な円安である。
[1] 高市早苗と岡田克也の予算委員会でのやりとり書き起こし
[2] 栗山尚一「台湾問題についての日本の立場-日中共同声明第三項の意味-」




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